12/05/11 11:56
上高地開山祭
アルプホルンに聴き入る開山祭参加者。やがて中国大陸からも…
館長の数少ない「家宝」のひとつに上高地の先代河童橋の廃材を利用した表札があります。もう40年近く自宅玄関で存在を誇示していますが、すっかり飴色になりました。
その河童橋のたもとで4月27日、上高地開山祭がありました。今年で44回目、久々の好天に恵まれ、2000人の山好きがアルプホルンの音色に聴き入りました。館長も招待状をいただき、鏡開きの樽酒を何杯もお代わりしました。
酒宴の延長戦を橋脇のお店でしていたところ、びっくりする光景に出くわしました。入ってきた若い女性グループ4人が中国語(に聞こえました)で会話を始めたからです。
「開山祭に中国から観光客が来る時代になったんだ」「でも、まだ中国人観光客は富士山、桜、京都、東京か、北海道といったゴールデンルートが中心ではないのか」「変わり種がどんどん増えているよ」
そこで、事情に詳しい松本観光コンベンション協会に聞いてみました。「それは台湾か、東南アジアの中国語圏からではないか」「私もシンガポールからのブロガー男女4人を当日案内しました」(山石徹誘致促進課長)
山石さんによると、松本の観光地はゴールデンルートから外れている上、中国の観光客は日本に一度来れば、リピーターは現状では期待できない。このため、松本はここ数年シンガポールを中心に現地PRを強化。その結果、現地テレビ局が「麺の対決番組に松本の蕎麦を取り上げたい」「チャーター便を松本空港に飛ばせられないか」など手応えはよいそうです。ただ、実際に松本を訪れる観光客の数は「まだ個人レベルの段階」といいます。
中国人観光客の受け入れでは先輩格の諏訪地方はこのところ、順調に数字を伸ばしてきましたが、昨年の大震災でダウン。今年も客足は戻っていない。このため、諏訪地方観光連盟は21日から5日間、北京、大連で「ものづくりツアー」をテーマに現地PRを試みます。加えて、以前から力を注いできた子どもたちの訪日教育旅行をさらに広げる構え。6月4日には韓国の中学生55人を下諏訪中学に迎えます。「将来おカネを落とす可能性の先取り」というわけです。
当館がメーンホールのサイトウ・キネン・フェスティバル(SKF)は昨夏、海外への「引っ越し公演」の手始めに中国に出張しました。これは、観光用語で言えば「SKFの現地プロモート第一弾」。「手応えは十分だった」と武井勇二総合コーディネーター。
とすれば、PRの仕方次第で富裕層の台頭が著しいと聞いているだけに、大陸観光客の夏の楽しみが「オペラ・オーケストラと穂高の山並み」という日が訪れるのはそう遠くないのかもしれません。
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12/04/25 11:27
バーの街・松本に乾杯
「バーテンダーは街の外交官」という林幸一さん(メインバーコートで)
松本に「バーの街」という呼び名が付いているのをご存知でしょうか。「呑ん兵衛」を自任する左党ならとっくに承知で、何店かのカウンターの常連かもしれません。でも、まだまだ知らない人が少なくないでしょう。
そこで、夜の街・松本の素顔の一端を紹介すると―。松本市中心街には20店ほどのバーが点在しています。人口24万の都市にしてはその数は多めといいます。そのうち、15店が加盟する「日本バーテンダー協会」長野支部は今年2月に物語仕立てのガイドブック「松本BARストーリー」を製作、発売しました。
B6判、32ページで、1冊300円。売上金の一部、1冊につき100円分は東日本大震災の被災地支援活動を今も続けている市内の飲食業者の炊き出しボランティアの会に寄付しています。冊子は1万部印刷、15店のほか、市内のホテルなどに置いて、これまでに約3500部が売れたようです。
支部長の林幸一さん(43)=メインバーコート経営=によると、7、8年前に市内のホテルでバー好き400人が集まってチャリティーパーティーを開き、「松本をバーの街にしよう」。全国発信の一環としてバーのガイドブックを作り、酒類メーカーの協力を得て無料配布。1万部が「あっという間になくなった」
次は「バーの雰囲気や魅力をもっとアピールできる内容にしたい」と模索を続けていました。その結果、「バーの日常にある実話をドラマ仕立てにまとめたら…」と、お客の女性フリーライターが提案しました。彼女がお店を回って店主に取材し、1店ずつの物語が出来上がりました。
1杯のカクテルで久々に恋人同士に戻った夫婦、同じバーボンを傾け合ってわだかまりが解けた父親と息子、被災地支援のため棚に並べた東北製造のウイスキーを見つけて喜ぶ仙台のカップル…。
今回は「読み物として面白い。なら有料で」ということになりました。お客さんの反応も良く、東京出張する営業マンは「出先で配るから10部ほしい」。なかには「行きつけの店に配りたい」という観光客まで現れたそうです。
「楽都(がくと)」。松本は別にこんな名前でも呼ばれています。小澤征爾総監督のサイトウ・キネン・フェスティバルがもう21年も続いているからでしょうか。「コンサートの後、余韻のカクテルが何よりの楽しみ」というクラシックファンも数多いと聞きます。
松本文化会館はこれらのお店にコンサートや新人寄席など自主企画イベントのPRチラシを定期的に置いていただいています。15店は当館の「強力な助っ人」なのです。それで、夜ともなると館長は「バーの街に乾杯」を繰り返しているわけです。
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12/04/09 13:35
人生最高の道楽
岩谷時子賞を受賞し、喜びを語る由紀さおりさん(右)
「こんなことは20年に一度あるかないか、ですよ」
3月19日に松本文化会館で開いた由紀さおり・安田祥子童謡コンサートは、1カ月以上前から2000枚のチケットが売り切れ。それでもなお当日まで問い合わせ電話が鳴るほどの人気で、主催者はこんなうれしい悲鳴を上げました。
4月4日、東京・帝国ホテルに招かれて第3回岩谷時子賞授賞式に出席しました。大賞を受賞したのはなんと由紀さん。受賞の理由は彼女がジャズオーケストラのピンク・マルティーニと3年がかりで共同制作した「1969」を通じて「日本の歌謡曲を世界に広めた」ことが評価されました。
由紀さんは「1969年当時の歌謡曲は本当に素晴らしかった。このアルバムを聴いてそのことを思い出してほしい」「この歳になって外国人と歌謡曲でコラボレートするとは思わなかった」
「人生で3回ブレーク(1回は『夜明けのスキャット』で150万枚のミリオンセラーの大ヒット、2回目は姉の祥子さんと組んで童謡・唱歌コンサート、女優として活躍、3度目は今回)するなんてことを経験できるのは、そうそうはない」「日本の歌謡曲はいま世界に羽ばたいている。(私は)とば口に立っているが、その矢先にこの賞をもらえて、とっても幸せ」
受賞後、由紀さんは岩谷さんが作詞した佐良直美さんのヒット曲「いいじゃないの幸せならば」を熱唱して会場から盛んな拍手を浴びました。審査委員の都倉俊一さんも「大人のハートに来る歌がほとんどない中で、日本の歌謡曲が由紀さんを通じて世界に紹介された」と手放しの喜びよう。
もうひとつ印象に残ったのは、若い才能に対する奨学金制度。今回はバイオリニストの山根一仁君が受賞しました。桐朋女子高校音楽科(共学)2年生で、2010年日本音楽コンクールバイオリン部門で26年ぶりに中学生優勝しました。会場でサラサーテ作曲の「チゴイネルワイゼン」を細身、長身の体をしならせながら弾いて「若いのに音の色気が出せる」(都倉さん)と絶賛されました。
今年で3回目の授賞式は200人を超す出席者で埋まり、テレビ各局のカメラが並びました。NHKは夜9時のニュース番組を含め3回も結果を報じ、「思いのほか大きい反響にびっくり」と岩谷時子音楽文化振興財団の島崎春彦理事長代行を嬉しがらせました。
ところで、江戸の三大道楽といえば、園芸に釣り、文芸が挙げられるとか。なかでも、文芸の道楽は俳諧、和歌、紀行文などで、多くの文人墨客を輩出しました。ですから、この賞も道楽と言ったら、96歳で大真面目の岩谷さんに叱られるかもしれません。しかし、館長には「だからこそ、人生最高の道楽なんだ」と思えてなりません。
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12/03/05 10:48
「湖国」産業の柱は文化
ホワイエから望む琵琶湖。見事な借景となっている
信州で「湖国」と言えば、諏訪湖周辺地域を指しています。そういえば、もう名前を聞かなくなりましたが、下諏訪町に「湖国新聞」という地域紙があったと記憶しています。
では、日本の湖国は―。言わずと知れた琵琶湖・滋賀県です。その湖畔にある滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールを、「湖国」つながりで2月下旬に視察しました。館長の畏友で、京都新聞社滋賀本社代表を退任し、現在は同県文化振興事業団理事長を5年務める岸野洋さんの招きに応じたものです。
びっくりしたことが三つあります。まず施設の大きさと豪華さ。これに圧倒されました。大ホールの18m四方のステージは4面あり、前後、左右、上下に稼働する仕組み。オペラなどの素早い場面転換に威力を発揮します。大ホール(1800席)のほか、中(800席)、小(300席)ホール。さらに湖に面した大ホールホワイエはガラス張りで、有名な近江八景が目の中に飛び込んできます。ホールで聴く音楽はもちろんですが、この眺めだけでも来た甲斐が十分にあります。
ソフト面にも目を見張りました。ホールでは「毎年、世界水準のオペラを作っています」と西川忠雄事業部長。昨年春はベルディ作曲の「アイーダ」。今年はワーグナー作曲「タンホイザー」(3月10、11日公演)。いずれも指揮は昨夏サイトウ・キネン・フェスティバルのバレエでタクトを振った沼尻竜典同ホール芸術監督。
加えてプロの若手声楽家集団を「月給を1人当たり20万円支払って職員として抱えている」(同部長)ことです。レパートリーの違う男女各7人。この声楽アンサンブルはオペラやオーケストラに出演する傍ら、県内の小学校へ巡回公演、ふれあい教室など、音楽の普及活動にも取り組んでいます。
三つ目のびっくりはホール管理が岸野理事長の事業団でなかったことです。平成10年(1998年)にオープンしたホールは同名の公益財団法人が県から別に管理受託して運営しています。昭和45年(1970年)設立の財団法人があるのに「なぜ」。「やがて運営を一本化する話はあるんやが…」。岸野さんの説明は歯切れが悪かった。
事業団が県から受託して管理している施設は文化ホール2、スポーツ公園1、の計三つ。いずれも県民の文化芸術、健康増進が主な狙いのようです。
これに対してびわ湖ホールは年間予算だけをとっても事業団に匹敵する15−16億円。うち、県から指定管理料9億2000万円、国から1億5000万円、入場料収入2億円…(同ホール22年度年報)。毎年のオペラも「最上のもの」をモットーに「文化で滋賀を元気にする」だけでなく、「関西全体の舞台芸術の振興」を目指しています。言ってみれば、ホールは県外から客を呼び、「外貨」を稼ぐ滋賀県産業の重要な柱に位置付けられていると思われます。
だから、管理委託も一般には公募せず、スタッフ約50人の3分の1近くを現職の県職員が占め、ほとんど「県直営」に近い形で切り回しています。「新しい革袋には新しい酒を」というわけでしょうか。
琵琶湖特産の「瀬田しじみ」は殻につやがあって旨いそうです。農林水産部門の前職当時、西川さんは県内外に出張する際、バッグの中にしじみの小袋をいくつもしのばせて居酒屋をPRに回ったと聞きました。きっと現在はしじみに代えてオペラのチラシがバッグに詰まっているに違いありません。
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12/02/17 10:51
目指せ「出藍の誉れ」
指揮者佐渡裕さんが松本でイチ推しする食べ物は「カツカレーとベビーシュー」と聞いてびっくりしました。なかでも、松本文化会館近くのレストラン特製のカツカレーは大のお気に入りで、コンサートの度に2人前を出前してもらうほど。
佐渡さんはここ数年、当館大ホールの指揮台に毎年立ち、昨年は春と秋の2度コンサートに訪れ、松本市民にはすっかり顔なじみ。レストランにはコック帽をかぶって笑顔で記念写真に納まる佐渡さんの姿がありました。
その佐渡さんに「押しかけ弟子入り」したのは下諏訪町出身の指揮者で、バルカン室内管弦楽団音楽監督の柳澤寿男さん(40)。15年前のことでした。「お前はものすごい有名になるか、まるで無名のまま終わるかのどちらかや」。師匠の言葉を発奮材料に音楽の道を進んできたと、柳澤さんは2月10日発売の近著「戦場のタクト」で紹介しています。
しかし、「なぜ、紛争の地バルカンなのか」という疑問が館長にはあります。2007年、コソボフィルハーモニー交響楽団常任指揮者に就任しました。「夜ともなると光という光のすべてを失い、時々悲鳴を上げそうになる」「冬になれば、部屋の中でも外に出る服装で閉じこもり、万が一の場合には誰が気づいてくれるだろうかという不安を振り払い、ろうそくを目の前に2〜3本立ててスコアを広げる」。過酷な気候のアパート暮らしに耐えながらの音楽活動でした。
「そんな思いまでして、なぜ」と再び思います。柳澤さんの答えは「音楽が持つ熱いパワーが平和の架け橋にならないだろうか」「バルカン半島の音楽家が私の振るタクトのもとで、一つになれないか」
柳澤さんをさらに突き動かしたのは、アルバニア人のコソボフィル音楽監督の言葉「音楽に国境があってはいけない」でした。そこから民族共栄のバルカン室内管弦楽団設立に走りだしました。しかし、現地はわずか50mの橋を北から南へ渡るのさえ銃を持った兵士の検問を通らなければならない困難がつきまといました。
2009年5月、コソボ紛争の地でセルビア人、アルバニア人、マケドニア人の室内楽団は初の公演を開きました。以後、楽団にはボスニア人、クロアチア人、ブルガリア人も加わり、旧ユーゴの小国に分離した各首都で公演を重ね、2011年5月には音楽の都ウィーンでショスタコーヴィチの交響曲を演奏して拍手を浴びました。平和ボケした館長には思いも及ばない勇気とパワーです。
柳澤さんは10月8日(月=休日)、師匠が立ったと同じ当館大ホール指揮台に民族共栄を掲げるバルカンのオーケストラを率いて立ちます。当館は2月7日にこの松本公演をサポートする「聴く会」を立ち上げました。
「出藍の誉れ」という諺があります。弟子が師匠より勝りすぐれる意味ですが、柳澤さんにはこの心意気を期待して止みません。
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