20/06/14 10:46

事務局の本棚「季節のない街」

季節のない街

 

今回、私の愛読書である山本周五郎の「季節のない街」について書かせていただきます。

この小説は確か私が高校生のころ朝日新聞の日曜版に連載されていて、毎週楽しみに読んでいました。
この小説の舞台は戦後間もない貧民街で、15編の短編がひとつながりになって書かれています。

この中で読むたびに泣けてくるのは、父子のホームレスが出てくる「プールのある家」です。
生活力のない父は子どもにいつもこれから建てる自分たちの家(?)の話を息子に語りますが、毎日の食べ物は5〜6歳の息子が調達してくる残飯に頼っているのです。
ある日、息子がもらってきた残飯に火を通して食べようとしたのを止めさせたために、父子ともひどい下痢となり、父は回復しましたが息子は死んでしまいます。
父は息子を墓地に人知れず埋葬し、死ぬ間際に息子が言った「ねえ、プールを作ろうよ」という言葉に語りかけるのでした。
父は「プールを作るのは賛成だね。大丈夫だ、きっと作るよ。君がねだったのはプールを作ることだけだった。君はもっとほしいものをねだればよかったのに」と無精ひげも髪もずぶぬれになりながら、顔を、目を、撫でているのでした。

「がんもどき」は実母から不器量だから「がんもどき」と言われ、叔母夫婦に預けられたかつ子が、中学にも行かされず、ひたすら内職をして働かされ、叔母の入院中に全く働かない叔父から妊娠させられてしまいます。
そのかつ子が傷害事件を起こし、少年を刺してしまいます。その少年は唯一かつ子に優しい言葉をかけてくれた少年でした。
かつ子は辛い環境の中で、心を閉ざし、唯一感情を爆発させたのが、自分に優しい気持ちを向けてくれる少年を包丁で刺すことでした。
かつ子の閉ざされた気持ちが、なんとも辛く読者に伝わってきます。

この本が描かれている舞台はおおむね70年も前のことですが、今読んでも人間の実相は変わらないことを実感させられます。
この本を読んで面白かった方はぜひ「青べか物語」も読んでみてください。 (K.M)
 

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